B:鮮血の母鳥 ブラッディ・マリー
あるキキルン族の船乗りが、大好物の卵を求めて、ブラッドショア沿岸のアプカルの巣をあさっていた。
その時、親アプカルが海から帰巣……。
激怒した母鳥は、卵泥棒をくちばしで滅多刺し……。
結果、緑の体毛が深紅に染まったこのアプカルは、「血塗れのメアリー」と呼ばれるようになったそうだ。
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ショートショートエオルゼア冒険譚
あたしは納得がいかずにふくれっ面をしていた。いつからかと言えばリムサ・ロミンサでこの依頼を受けた時からだった。
今回のターゲットは巨大なアプカルだった。通常アプカルと言えば体高は大きくても90cmほどで空を飛ぶことはできないが、水中を自在に及びまわることができる、いわゆるペンギンに似た海鳥だ。
飛ぶより泳ぐ方が得意な事からも分かるように主食は魚介類で、近寄りさえしなければ無害で可愛らしい。ただ産卵期には気性が荒くなり、巣に近づくと胃から飲み込んだ魚を勢いよく掃き出しミサイルのように飛ばしてくるが、自らすすんで人を襲うようなことはまずない。今回ターゲットとなってしまったアプカルは体高は約2mと規格外の大きさなので飛ばしてくる魚の大きさもそこそこ大型の魚を飛ばしてくるらしいし、その巨大な見た目も人が恐怖を覚えるには十分なサイズではある。実際に襲い掛かられた場合に危険か、危険じゃないか、と言われれば普通のアプカルに比べれば危険であることは間違いない。
で、あたしが何が気に入らないかと言うとそのリスキーモブへの指定理由だった。
手配書によれば、その巨大アプカルの留守中に巣から卵を盗もうとしたキキルン族が、たまたま戻ってきた巨大アプカルに見つかって襲われたことが理由としてあげられているが、これはどう考えても悪いのはキキルンであってアプカルではない。アプカルからすれば単に誘拐され食べられそうになった我が子を守ったにすぎないし、本当に深刻な被害が出ているならわざわざこんな微妙な案件を取り上げて「ブラッディ―マリー(血みどろのマリー)」なんていうおどろおどろしい二つ名をつける必要はないし、本当に悪者なら上塗りするような印象付けをする必要もない。逆に言えば、わざわざ悪い印象を付けなければリスキーモブとして扱うことに正当性がないという事ではないのか?
そもそも、海賊国家であるリムサ・ロミンサでは海賊同士の強盗犯や窃盗犯は現行犯で捕まえた場合、洲巻にして海に沈めても良いことになっている。それを援用するのなら、卵泥棒を働いたキキルンこそ洲巻にされ海に沈められるべきなのに、逆に被害を受けた巨大アプカルがモブハントの賞金首になっている事が腑に落ちなかった。
ふくれっ面でアプカルの弁護士さながらの熱弁を振るうあたしを頬杖をついて冷ややかに見ていた相方は言った。
「言いたいことはわかった。でもすごく理屈っぽい」
あたしはがっくりきて全身の力が抜けてうな垂れた。
「でも確かに言う通り。最近無理矢理な話は多いよね」
あたしは顔を上げて相方の顔を見た。相方は少し考え込むように眉間に皺をよせていたがあたしの方を見て聞いた。
「とりあえずこのモブハント、受ける?受けない?」
「もちろん受ける。受けて見守りながら考えるよ」
あたしが言うと相方は笑顔でうなづいて見せた。